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2007/12/26

『熊井啓 戦後日本の闇に挑む』を観る

23日は、教育テレビで、ETV特集として、前の記事でご紹介した『夢のかけら』の熊井明子先生のご主人さまで、今年7月突然のご逝去の報に心を傷めていた熊井啓監督の仕事をまとめた『熊井啓 戦後日本の闇に挑む』 の放送がありました。
この番組はしっかりと見たかったので、録画しておいて、昨日観ました。
熊井啓監督の作品といえば、一般的には『黒部の太陽』や『忍ぶ川』サンダカン八番娼館』遠藤周作さん原作の『愛する』『深い河』、故黒澤明監督の遺志をついだ『海は見ていた』の監督さんだったと言えば、ああとうなづかれるかと思います。
でも、一方では、『海と毒薬』など、「暗い、重い、地味」として、特にバブル絶頂期には興業収入も落ちて、敬遠されるという苦難の時代も。
けれど、そうした作品はベルリンやベネチアなどの国際映画祭を受賞しており、「社会派映画監督」の第一人者、とされていた方です。
実は私も啓監督の社会派作品は、なかなかテレビでオンエアされないこともある上に、かなりの小心者なので、衝撃的シーンを直視する勇気がない・・・と見たことがありませんでした。
ところが、松本サリン事件を扱った『日本の黒い夏-冤罪-』、これは見なければ・・・と意を決して?レンタルビデオで見たところ、重い問題でありながらさわやか、そして主役は寺尾聰さんと中井貴一さんだったのですが、北村有起哉さんというステキな役者さんにも出会ったのでした。
実は啓監督は社会派というだけでなく、男女の美しい愛も描く監督です

番組は、啓監督の作品で主要な役を演じられた渡辺謙、加藤剛、奥田瑛二、栗原小巻さんといった豪華な俳優陣や、スタッフの方々の貴重な証言とともに、「重い、暗い」作品ばかり意識的にとりあげられていましたが、そのことによって、それらの作品の魅力がたちのぼってきました。
それに、さすがにタイなどに駐在して、母親業もやり、安楽椅子ボランティアとはいえ、さまざまなことにいつも全力で(?)とりくんできたために、こうした社会派作品を味わえる精神力がついてきていた・・・(^^;;?

それから、明子夫人、啓監督の著書は読んでいたので、本から読み取っていたことが、もちろんお二人の姿も含めて実際の映像で観られるという魅力もありました。

とりあげられた作品は、

帝銀事件 死刑囚』『日本列島』『地の群れ』『日本の熱い日々 謀殺・下山事件』『忍ぶ川』『海と毒薬』『日本の黒い夏』・・・
よりによってザ・社会派!のものばかり!!
(『忍ぶ川』はちがいますが・・・)

昭和5年生まれの啓監督は、青少年時代に、2度の裏切りを経験したといいます。
一つは終戦による、それまでの軍国教育の否定。
そして、二つ目は、そのあとに来た民主主義の教えに胸をおどらせたのもつかのま、その理想どおりにすすまない社会の矛盾。

啓監督にとって、上にあげた映画は日本の終戦とそれに続く占領下の時代の闇の部分だったのですが、それこそ、「啓監督にとっての青春時代そのもの」だったのです。
いわば、『Always 三丁目の夕日』のような美化されたノスタルジックな戦後ではなかったのです。

啓監督などの昭和ひとけた世代のちょうど娘世代になる私は、実はその帝銀事件、下山事件、三鷹事件と番組で紹介された占領下日本の「三大事件」といわれる事件のことをすでに聞いたことがありませんでした。
大事件としておぼろに記憶が始まるのは、「吉展ちゃん誘拐事件」でしょうか。
子どもたちにとっては、血相を変えた親から、「誘拐」されないように固く注意されましたから。

しかし、映画に映るその時代の姿は、まぎれもなく、私の父の若いころの姿そのものでした
これこそ、啓監督による、てっていしたリアリズムの追求のたまものなのです。
その時代を正確に、匂いまでよみがえらせてくれる。
それは、めんみつな取材とご自身の経験から映像として定着させることこそ、映画ならではのわざでしょう

どこがそうかというと、たとえばワイシャツの袖のふくらみぐあいなんです!
ああ、父の若いころだ・・・と感じ入ったのは。
それから、汗をぬぐうようす。
急ぐようす。

そして私は昭和30年代にもどりたいとはちっとも思いません。
郷愁も感じません。
なんといっても、その時代はまだ不衛生だし、病気も多いし、冬は寒いし、大人や子どものいじめもひどかったです。その当時だって。
顔中にはたけを作って、さむざむとした顔のつらい境遇の人が多かったのです。

番組の最後に、熊井監督と仕事を供にされた方々のおことばでは、
「疑うことの大切さ」を持ち、真に人にやさしい人だった(「冤罪」について何度も映画のテーマにとりあげられた方であるし)。
そして、「映画にはいろいろとあっていいけれど、このように社会の矛盾にストレートに向き合い、正気でオーソドックスなことをちゃんとやる人がいてくれないと、表現分野としての映画は滅びてしまう」と。

たしかに、このような仕事をされる方はほかにはいらっしゃいません。
だからこそ、啓監督の作品は、売れない、重い、暗いと言われながら、日本の大地に爪あとを残したのでした。
そしてその映像には貧しかったり残酷な場面のために気がつかれないことも多いのですが、実はすばらしい美意識によって描かれているのだと改めて知りました。
そしてそこに、徹底したリアリズムの追求があることで、信頼感もあるのです

『海を見ていた』は、廓の中のしつらえなど、「おお!アジアンだ!」と驚かされるところもありました。
これも正確な再現らしいのですが、インドネシア、タイから日本に続いたアジアン風のインテリアがとても印象的でした。

チキンハートな私ですが、これから時間ができたら、どんどんと啓監督の作品を追っていこうと思います・・・『海と毒薬』は早送りするかもしれませんが・・・(ごめんなさい、血を見るのがこわいんです~~~)。

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» 映画監督 熊井啓 [magnoria]
 先日、NHK教育テレビでETV特集「熊井啓 戦後日本の闇に挑む」という番組が放送されていた。 http://www.nhk.or.jp/etv21c/backnum/index.html ←ETV特集「熊井啓 戦後日本の闇に挑む」 私は今まで映画にはほとんど興味がなかったけれど、熊井啓監督のことは私の尊敬するエッセイスト・ポプリ研究家の熊井明子さんの夫ということで興味を持っていた。 http://hamigakifonkun.cocolog-nifty.com/maphraau/2...... [続きを読む]

受信: 2007/12/29 11:43

» ETV特集「熊井啓 戦後日本の闇挑む」NHK教育テレビ [飾釦]
先の12月23日にNHK教育テレビのETV特集で放送された「熊井啓 戦後日本の闇挑む」を録画し、それを見ました。見ごたえのある番組であった。社会派映画監督としてつねに良質な映画で社会の闇の部分に切り込んだ熊井の作品。 熊井の代表作「海と毒薬」を公開時に観たとき、強い衝撃を受けた記憶がある。もし自分があの場所にいたら果して拒否できたのであろうか?自分が所属する環境が反社会的、反人道的な方向に向かっていく時、それを拒否し告発できる強さを持ち得ることができるのであろうか?誰でも起こりえる状況・・・、そん... [続きを読む]

受信: 2007/12/29 19:16

コメント

私は『容疑者 室井慎次』の予習として『日本列島』を見たのが熊井啓監督作品に触れた最初でした。

こんな骨太な番組をしていたことすら知りませんでした。
『海と毒薬』は原作すら読むのが怖い私でしたが、母となってウン10年経った今なら見られるかもわかりません。

私も30年代に甘いノスタルジーを感じないのです。
自分が生まれたあの時代を知って、今が新たなる戦争の「戦前」とならないようにと思うばかりです。

投稿 榊 真央 | 2007/12/26 15:30

榊 真央さま

おお!このような骨太(?)な記事に反応ありがとうございます~~~。
そうか!
『容疑者 室井慎次』のときの『日本列島』ありましたよね!!
み、見なければ・・・。
あのとき、最初のいきごみはともかく、『容疑者』の映画のほうがムニャムニャ・・・だったので、腰くだけになってしまって・・・。
(新城賢太郎氏のかっこよさだけは残る!)

>今が新たなる戦争の「戦前」とならないようにと思うばかりです。

まったくねえ・・・。世界中がこまったことになってますからね・・・。

投稿 管理人チョムプー | 2007/12/26 19:12

このような番組とはまーったくかけ離れた私ですが
チョムプーさんの「作品を愛し真摯に向き合う心」
が伝わってきました。

私は息子の骨髄移植の経験から
「疑う前にまず信じろ」
が自分の信条ですが

「信じたいがために疑う必要性」
も今の世の中にはあるとも思います。

この様な番組情報はなかなか入らないため
またいいお話をきかせてくださいね。

投稿 らいざ | 2007/12/26 22:19

らいざさん

もありがとう!
本当に、むずかしい問題に「正面から向き合う」ってすごく大変なことですよね。
今は、自分の子どもにさえ「正面から向き合う」ことができなくて、ご機嫌をとってしまう・・・という時勢らしいですから・・・。
でもほんと、正面から向き合うって勇気のいることですよね。

投稿 管理人チョムプー | 2007/12/26 22:46

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